唯幻

 ・コミットした理由は、被告の意思を尊重し、その利益を第一に考える刑事弁護が懲戒対象となり、弁護士が除名、廃業に追い込まれる社会は嫌だという感情論から 以前から「凶悪事件」の報道、情報には目をそむけている 妥当性を論じ全貌をあぶりだす、斟酌し量刑を下すのは司法の職責、好事家の案件であり、自分はどちららでもない
 ・公民教育をさらに拡充すべしという意見もあるが、裁判制度の初歩を理解していない人は少数なのではないか その思想と成り立ち、枠組みから弁護士の相克まで教えるとなれば、「私有財産はなぜ認められているのか」といった項目をカリキュラムするようなものかもしれぬ 他の課目(幸福追求権の諸権利とか)を履修する時間を犠牲にしてまで詰め込んだとして、またぞろ日教組教育からの解放と叫ばれてしまうのならしょうがない
 ・必要とされる人に限って受け取りを拒む 「バックミラーだけを見ながら車を走らせる」という怖い話を子供の頃読んだが、裁判員制度もそれなりの場所にたどり着くのではと思う
 ・被害者の人権と加害者のそれを天秤に掛ける言説がある 「不当な告発によって拘留されない安心な暮らし」を希求することも、「凶悪犯が野放しとなる不安な社会」と天秤の関係にあると考えるのだろうか
 ・被告人の世界観は弁護人の世界観ではないし、責任能力の欠如を訴え無罪を主張しているわけでもない 本人訴訟の答弁書で強い人間原理を基盤にした物理学、唯物論ゆえにソ連は崩壊したといった政論をもって行為を正当化したケースとは異なる
 ・プライバシーを暴き、挙句おざなりに消費してしまう行為は「卑猥」ではないのか 声明文から犯人像をプロファイル、限られた資料で裁判官役までこなすゲームに価値はあるのか 公判中の事件に於いて「無期が相当」、「極刑やむなし」とわざわざ言明する意味はなんだろうか
 ・士業の特異性というか、自分にとって彼らの仕事が神性を帯びるのは刑事弁護士の報われない活動に拠る 懲戒を煽る同業者は論外としても、界隈で他人事のような、お手並み拝見といった態度が覗ける意見もあった 「朝日の事件は全ての報道機関に対する挑戦とは認識していない」、「伊丹(映画)の受難は個々の問題 映画人、俳優全般の問題ではない」、そういった声はさすがに皆無に近かったが、同業者に高所大所から冷ややかに論評されては、たまらないのではないか
 ・「太陽がまぶしかったから」は理に適った、自分には納得できる言葉だった カミュの創作ノートからも推察できるように、主人公を取り巻く世界(民衆、法曹、宗教)の不条理を描いた作品が、不条理殺人の文脈で時折言及される
 ・広告業が悪魔の手先、社会に害毒を撒き散らす賎業とみなされ、間借りも断られるような社会であったとして、「しょせん代理店、我々は聖書を引用する悪魔なんだ」と業界最上層の誰かが広言したら、勇気ある発言、冷徹な認識であると外野から賞賛されるのだろうか

以上を踏まえ喩え話を
時事問題を語る、それもアレゴリーやメタファーで綴ることは、(知識があり、洒脱で才能を有する人ならばともかく)不正確で不誠実な態度であり、読み手に不快を与えると承知している 世の中は不誠実で不快で、無慈悲で残酷だとも思っている



例えば、以下のような主張も、庶民感覚に根ざした法解釈となるだろう
「速度超過、車間距離違反、酒気帯びで幼子を死に至らしめたドライバーは命をもって償うべき 殺意はなかった、光が目に入った、実は後続車に煽られていた等々供述しているらしいが、幼子が死んだ事実を前にしては何とも虚しい抗弁だ アルコールを口にした時点で判断能力、制御能力の低下は自覚していて(未必の故意だ!)、アクセルを踏み込んだ時には、被告の殺意はゆるぎないものであったと推定できる シンナー男が猟銃を持ち出し、幻覚で人を射殺したと考えてみろ ドライブは好き、法定速度を守るやつは迷惑、昨夜の酒が残っている日もあるかもしれない――その一方でシンナーや猟友会には縁がないからとダブスタするようではご都合すぎる」

テレビの内情に詳しい49期A君には、閉じこもって不平たれているのは傲慢で怠慢だという思いがあるようだ マスコミは甘くない、ふざけてやっているだけでは電波にはのせてもらえない、「やり方」があるという 自分なりに弁護士会がテレビ局に影響力を持ちうる「やり方」を考えてみよう
・しがらみを作る 大手芸能事務所の威光は、タイアップやスキャンダルのもみ消しと局内をあまねく照らす しかしながら、司法試験にタレントオーディションの判定基準を導入するわけにもいかぬ
・金を出す 弁護士広告が解禁になったわけだが、やはり番組スポンサー費用の捻出がネックだろうか 相談料に広告費を上乗せしても、たいした本数は打てそうにもない
・パワーゲーム1 医師会の奮闘を見習い、二万人の政治的意見の集約を徹底し、まずは党や候補者に提出する自前の選挙人名簿の作成から始める 戸板もどぶ板も厭わない 参考人召致、喚問をちらつかせるほどの政治力を目標とするが、国家と対峙する立場でもあるわけだから、「本末転倒」とする非難は避けられないだろう
・パワーゲーム2 所属するメンバーの事件関与、またたとえ逮捕されても、関係者各所へのテレビクルーの押しかけ(照明と塀際に陣取る正義のレンズ)や、在りし日の卒業文集やクレヨン画の公開を免れる特権グループが存在するという この都市伝説が事実だとしても、日本国憲法より内規を遵守するメンバーが、弁護士会を多数占めているとはさすがに考えづらい
 やはり正攻法で地道に行くしかない
・恩を売る 局や社員、出入りのコメンテーターのトラブルには手弁当で駆けつける 下請けAD諸氏の心構えは参考になろう やれることはなんでもやる タレントの現住所を割り出したり、ネットで「マスゴミ」などと書き込む人物の特定等も喜ばれるだろう
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現在が性癖語りをタブーとする環境世界(例えばフロイト以前の慎み深い時代)であったとする 強盗致死を糺された被告が「バックを持ち出したのは後からの思いつきで、被害者のハイヒールに欲情し、レイプ目的で襲った」と抗ったらどうなるか 「靴で欲情? 皮と樹脂を接着剤で張り合わせたものに興奮したと?」馬鹿を言うなと世間は一笑するだろう 「死刑を回避するための作り話だ」、「この戯言が通れば、高い靴を履いた被害者は、誘った、自業自得だと非難されてしまうわけか」といった嫌味が続くだろうか(実際は観念的競合が生じる事例が多いようです)


想像していた以上に不明瞭で悪趣味なものになりました
 軽口を叩くのは怖いからだと思います 暴力は恐ろしく、語る事すら恐ろしいから お屋敷の暖炉の前でカードを握りしめた死体についてはあれこれ推理できても、生々しい現実を考えるのは拒否したいのが自分の本性かと痛感します