すっかり忘れてしまっていること#4 府民時代(仮


 選挙も終わったことだし、たらたらーと
 議会を長年牛耳ってきた自民党にまことに相応しい候補者が、府民にとっても相応しい人物であったということなんかな(黒田時代の議会との緊張感を懐かしむ年配記者の話を聞いたことがある) 自分は自公が推し、島田司会者や家鋪司会者(と影響力は落ちるが大谷昭弘)が推すタレントが落選するような結末は、府の見張り番が「我々の役割は終わった」とグループを自主解散するほどの事件と考えてた でもダブルスコアは驚いた 大阪も文化人によるコメンテーター芸人枠への侵食が思ったより進んでいたのねえ
 ところで翌朝刊紙面で朝日にピックアップされた新知事に投票した府民たちの弁(自分は水曜に読めた)、記者は思うところがあるのと邪推したくなった 投票理由はそれぞれ、期待として「暮らしが先細りにならないように」と望む男性から始まり、「高齢者の医療をしっかりやって」、「私たちが身近に感じるような言葉で政治を伝えて」と続き、極め付きに「伝統文化に接する機会を取り入れてほしい」と最後に来た もし「消去法で 対立候補の口調は高飛車で陰険、なにより汚い、人として信頼できない」なんて投票者を付け加えていればもう上がり 恣意的だとの謗りは免れなかったはず
 選挙前に気になっていたのは「府民はタレント知事には懲りている」なる説 自分は(若一光司以外で)関西を基盤とするコメンテーター、アナウンサーからこの種の意見を聞いた覚えがなかった 現職知事が起訴されるという未聞のわいせつ事件が起きた当時でさえ、告発後の「原告は嘘つき」、「大勢の弁護士軍団には政治的意図を感じる」、「共産党のスパイだ」というスタジオの応援団、勝手連諸氏の放言を神妙な顔つきで拝聴していた彼らは、(知事本人が罪を認め)団のメンバーが一転揃って政治的発言(被害女性への謝罪を含む)を封印してからも、いささかも変わることなく、まるで自社の不祥事が発覚したごとく沈痛な顔の黙して語らずの姿勢を崩さなかった(黒田清が苦言を述べたが、絶頂時の上岡に逆アップを食らわされた 応援団にはちょくちょく注目エントリに取り上げられる遥洋子がいたが、ノーコメントを貫いた彼女を東大の指導教官は情けなく思わなかったのかしらん 事件をネタにした関西芸人は自分の知る限り、青島フックと”知事が毛布持って隣に座るぞ〜”のこれまたエントリ話題のキンコン 他人事ながらヒヤヒヤした)
 横山知事は選挙で民意を問い、審判を受けて終了したわけではない 辞任が決定的となったのは刑事事件となり、「わが党は懐が深い」とニヤついていた自民府議連の尻にも火がつき態度が硬化、議会運営の見通しが立たなくなったせいだ 自分は当時、仮に禊と銘打って横山が出馬したら当選の可能性は高いだろうなーと考えていた 有権者は「府政の舵取りは間違っていなかった」、「他候補の魅力のなさ」とさまざまな理由をつけて投票したと思う それほど民放各局はこの政治家を支え続けた 選挙の度に「おめでとう、ノックさん!」なる番組が組まれ、プール金での職員の飲食が発覚しても、学校の電灯が外されても、入学金が十倍になっても、不良化する箱物を作り続けても、知事への擁護意見がすかさずナレーションで差し込まれる――「仕事終わりにビールで乾杯ぐらいええのとちがう?」などど他の知事が発言したとして、果たして「わが社だって経費でお客さんにそれなりの弁当出しますものねえ」とか「騒いでる人たち(見張り番)はいったいどうしてほしいの?」と労わってくれる報道人が出現するだろうか コメンテーターでは『これがノックだ!』でキャスターを務めた大谷昭宏の「負債は歴代知事からのツケ、責められるノックさんはお気の毒」が典型かな 関西の視聴者は「君らいつまで〜」と報道陣に怒鳴りつける例のシーンを夕方以降の全国ニュースでやっと確認する次第 ローカルでは名誉毀損による賠償判決が下っても、「一千万は高いでんなー」といった「府民の声」を紹介していたわけだ(島田司会者の暴行事件を報じた際の、49期A君のコメントと比べればたわい無いものだが) 辞任に伴う出直し選で横山府政の継承を訴え、選挙カーに大きく前知事の名を刷った自民府連の候補者も、おそらく同じ考えだったに相違ない 「ノックに騙された、タレント知事などもうごめん」は府民を代表する声だったとは思えない


 今回の選挙結果をポピュリズムに帰した論調を否定する意見も多い 「大阪の有権者はテレビに出てるだけで(一票)入れてくれるほど甘いことおまへんで」という名言は、異論を端的に表現するものだろうか
 このセリフは以前言及した「日本のよふけ」でのVTR出演で横山知事が語ったもの 司会は「政治のことはわかりませんがー人柄はー僕がー保証しますー」と高島屋前で演説をぶった人 実は横山は公人としての活動に時間を振り向けるため、一切のタレント活動を自重した時期がある 結果は生涯唯一の落選 議員活動に精勤した自負は全国区からの出馬を決意したほどだったのだけどね 地域マスコミでの露出という最大の選挙活動を軽視した己の不徳を恥じ、以降はたとえ知事職にあってもテレビ出演にこだわった 「公約違反といつまでも文句を言うのは共産党だけ」、「縛られたくないので選挙公約は掲げない」と二期に臨み、投票日前には強制わいせつの告発を受けながらも記録的な得票で当選を果たしたのは、その認識が至極正しかったからじゃないのかな? まあいくらタレントでも、選挙の時だけ阪神ファンをアピールし、関西ローカルの番組出演も稀、封印を解いた元応援団落語家を記者会見場に座らせただけの江本では、さすがに自公民と咲くやの漫才師を味方に付けた現職知事の再選は阻止できない


 所謂「郵政選挙」の時の話 今は引退した女性タレントが、テレビは小泉の設定した対立構造を煽り、国政を矮小化しているのではという報道批判に対して、今までまったく選挙に関心なかったお友達が今度の選挙には絶対行くと言っている、こうやって盛り上げてくれたおかげだと野次馬的な報道姿勢の効用を述べた さすがは空気読みを自認するだけの事はあるなーと感心 毒舌が売りの隣のコメンテーターが「そんなやつら棄権した方が民主主義の穴の一つが塞がってくれて良い」と言ってくれたらもっと面白かったんだけど、まあ言わないわね 年金にも戦争にも動かなかった彼らが、郵便事業に個人的な思い入れを持つとは考えにくいので、「刺客」のアナウンスに引き寄せられたんだろうなあと 選挙後、新成人を除き初めて選挙に行った人々の政党別の投票先を示したグラフを見た記憶があるんだけど、勿論Fランクダイアリなのでここで引けない


 人々はなにも愚かだったわけじゃなく、疲れていたのだと思う 財政再建のボーダーにある暮らしの中で、金にならぬ残業に、職探しに、人間関係に忙殺され余裕がなかったから(各候補者の背景、思想、人柄を丸一日掛けて比較検討した覚えは自分はない)、物がかすみ、うるさくて集中できなかったからだ
「こんな細かい字で書いてある規約、いちいち目を通してられまへんがな」という泣き言が、実務のリアリストを誇称し、保険業界の用人でもあった新知事に通用するべくもないのだけれど