テンプラス・テン


 十代のうちに読んでおくべき本なあ JFKはスポーツ等にかまけて大学入学後にようやく資本論哲学書を読み始めたという といって課題を読破して某新聞の主筆みたいなのが後年量産されても困る それに思想書は良き教師ホワイトヘッドの名著と、いしいの『現代思想の遭難者たち』ぐらいしか思いつかぬ
 ということで
十代に読めばより楽しめるのじゃないかな小説十冊
 子どもが楽しめる物語は大人が読んでも楽しいし、大人が読んで楽しいのは子どもにも・・・が持論なのですが、まあ浮かんだまま挙げます(二人のコパフィールド君の苦闘を描いた二冊と、件の少年の受難に感涙したアン・シャーリーの半生本は割愛しました)


ミシシッピの生活』マーク・トウェイン 実体験を基にした回想録だけど、若き日の思い出として演出したのは作家の技巧
『吸血鬼カーミラ』レ・ファニュ ドキドキしちゃう 若いって柔らかい、すばらしい
デミアンヘルマン・ヘッセ 「エーミール・シンクレールの少年時代の物語」 高校の授業中に読了し、小さく声を上げてしまったのをつい思い出したので トニオ、タジオの両君に感心できなかったあなたに
『シカゴ・ブルース』フレドリック・ブラウン 懐かしの「通過儀礼」 奇才ブラウンの名を意識すると物足りないかもしれないけど、手堅く、品よくまとまった作家の処女長編ミステリ
『遠い声 遠い部屋』トルーマン・カポーティ これほど抑制的な作品、スタイルであっても、なぜか「成してやる」というカポーティの叫び、意欲が感じ取れる小説 ヒリヒリします やぱり変人だったのでしょうか 幼少期の思い出を綴った穏やかな小品のファンも多いと聞きます
火星年代記レイ・ブラッドベリ 「ブラットベリは十代に読め」は誤りだと思う が、この連作はやはり若いうちがいいかなーと 悪魔的な『刺青の男』は後回しにして
『都市と星』アーサー・C・クラーク追1・2 硬質でも十代の感性ならば詩情が味わえるのじゃないかと ローダンバローズのちゃちな赤い星の描写に入り込める感性で挑んでほしいかなと(実はクラーク、『白鹿亭綺譚』以外は自分はさほど楽しめなかった 若者に託す)
『夏の読書』バーナード・マラマッド 短編集『魔法の樽』の収録作品はどれもお手本 中でも若い人にこの一編を
ムーミン谷の十一月』トーベ・ヤンソン シリーズ屈指、最終巻にふさわしい鮮やかな作品 ハックルベリーが死ぬ日に読むべき小説ならば、これは生まれる日に読む小説
『IT』スティーヴン・キング ファンの間では記念碑的とか金字塔と評されているけれど、正直わからない 十代で読めばまたちがったのかなあという意味で挙げました

番外で 『ヨブ記旧約聖書 若いうちにこのテーマを抱えていれば、褪せることなく、年を経てもあれこれ楽しめます


追記1(3月19日) またレンフロの時と同じ過ちをしてしまった リンク元を見て、クラーク人気あるんだなあって 「あーあ」という呻きしか出ない
 他ジャンルでは滅多に語られないが、「最高のSFは? 最高のSF作家は?」なる問いがある 自分はクラークは「最強のSF作家」と位置づけていた 半世紀後の輝かしい未来がもしあるならば、深宇宙に挑む船の居室に飾るにもっともふさわしい絵画は、システムが乗員たちに”ハル”とひそかにささやかれる定めのごとく、ジェリコーの『メデュース号の筏』に相違ない
追記2(12月30日) 『都市と星』は入手困難な様子 アニメででも映画化しないかな 文庫に関しては買い控えは勇気が要りますね 語り手の忠告に従って『新しい太陽の書』を二巻で読了し(思わせぶりの劇中劇に耐え切れず)、ある作品の下巻を手に取るまで二十年掛かった経験者が言うのだから、まあそうです

追記の追記 ディックの『火星のタイム・スリップ』が絶版だった 「もしランプの精に”古今東西の書物から一冊、貴様の名で出してやる”と具申されれば、僕はフィリップ・K・ディックの『火星のタイム・スリップ』を選ぶ」と語る人がいた 自分もこの小説を『ヴァリス』と双璧を成す、作家の頂点と考えていた 年末に寂しいニュースが一つ増えました