神は銃弾

ドラマの影響? 24やERに限らず、むしろ選別男はサスペンスの王道 そこから、俺たちは正しいのか、抑、資源は本当に足りないのか、真に順当、合理的なのか、目前の人を救えずに・・・と、登場人物が動きだすhttp://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/fuku33/20080522/1211444127

関連して思い返すままに

 トリアージなる言葉を知ったのはドラマ『ER』が最初だったと思う――もちろんこの状況をテーマにした創作物はもっと前から見聞していたはず 市街地への巨大ロケット客船墜落の危機、緊急事態を扱ったポール&コーンブルースの『ある決断』が最も古い記憶かな?(72年に発表されたヒューゴ受賞作だが、このコンビによるミリタリーSFの傑作はメリルにも選ばれた『クェーカー砲』だと思う)*とんでもない記憶違い申し訳ない*ランドル・ギャレット&ロバート・シルヴァーバーグの『決断』が印象深い――医学生カーターは燃え尽き症候群(ローズウォーター症候群と呼ぶべきかも)の反動で腕っこきの功利主義者に転じ、レジデントのルイスから「あなたはそうならないと思っていたのに」と失望される グリーン医師は状況(舞台)を楽しみ、ロスは怒り、コーデイは院内システムの不備を訴え、クロアチア人コバッチュは妻を失わせた自らの選択を悔やみ続けた
 ドラマ『24』、職責を果たすためには大統領や自分の命さえ容赦しないバウアーテロ対策捜査官だが、家族や恋人救出に目的を設定すると、アメリカ全土を危険にさらす事をためらわない わかりやすい男ですな
スタートレックII カーンの逆襲』のオープニングは候補生たちのシュミレーター内試験風景 映画のラストで副官スポックはこの出口なしの設問に一つの解答例を差し出す スポックやカークのような離れ業、英雄的行為を忌避する外交官ピカードを艦長に据えたテレビシリーズ『スタートレックTNG』のエピソード「記憶喪失のアンドロイド―Thine Own Self」では、ブリッジ士官昇進に向けた類似の試験が行われ、機関部長を供犠としたトロイは憂鬱な勝利を得る(TNGで一番の女性キャラは共感能力者のカウンセラー・トロイじゃなく、痩身のビバリー 思えばマッコイもホロドックも好きだった 医療担当は軍艦に於いても独自の規律を持つ特異な存在だったせいだろう)
 出来のよいサスペンスでは、日頃は石橋を叩いて渡らぬ冷徹な慎重居士が、否応なく瞬時の決断を迫られる状況に追い込まれる 不注意な人物の愚かしいミスで物語が転がるのはげんなりしちゃうものね 何ヶ月も練った計画がひょんなことで齟齬を来たし、出たとこ勝負で右往左往する犯罪者らの造形はビル・プロンジーニエルモア・レナードあたりが得意とする 倫理面をあえてネグレクトした作品としては、自分はル=カレを挙げる 無常、無情の作風とでもいいましょうか(但し現実では活発な言論活動を行っている人だけれど)
 成否、正誤とは別に、選別を下命するのは一体誰なのかも大きなテーマだ アシモフショートショート『篩い分け』はトリアージ役(ヨゼフ役)を請われた生化学者が、サイコロならぬ透過性死神が挟まれたサンドイッチに全てを託し、偉大なる世界食糧機構の理事たちに配膳する スティーヴン・キングは「祈りは呪い」、「神は無慈悲である」という(mythical・創作)ガジェットを駆使し、創造主のルール――御心、或いは<カ>――に従う、無残を看過せざる得ない主人公の苦悩を好んで描いた 見えざる手によって腕に黒い布切れを巻かれるのは大抵イノセントな少年兵である 『レギュレイターズ』、『デスペレーション』、そして『ダーク・タワー』に於いて大人たちの葛藤は無力であったが、『トミーノッカーズ』ではその命に敢然と抗う酔っ払いが登場する 最大多数条項を削除し、「個人の幸福の極大化」を目指すことが――to thine own self be true――彼自身の原理であったわけだ 世界がなんだ、ダラス警察くそくらえってなもんですな

 しかし平時の民間人でさえ宇宙艦隊士官並みの矜持を持たなけりゃならぬとは、まったく油断も隙もない世の中です 宇宙時代の曙を描いた『ライトスタッフ』中で、バイオの権力を弄ぶ知人(朝食前に生き馬の目を抜くらしいビジネスマンの妻)をぼやくパイロットの妻たちの会話をひょっこり思い出しました


追記 でもバウアー捜査官は責められぬ 『ER』とて、訪れたドクターらの親族が受付前で五時間座り詰め、挙句待合室で卒倒するといったシーンは記憶にない(例外はヘリコプター墜落事故の際に診察を断り、歓談中に失血で気絶した救急隊員であるルイスの夫君だ) 原義により近いトリアージの現場となれば、野戦病院辺りとなるのでしょうが、なぜか御大アルトマンの『M★A★S★H』(映画)と比べても、ちとB級で(トリプルクラウンにあと一歩)すこぶる感傷的な『ドリーム・ベイビー』(ブルース・マカリスター)が沁みましたね
 話題の『オメラスから歩み去る人々』は講談社のSF選集で(つーことは中学の時だ うへえ) 長髪の青年が再臨し、ふたたび磔刑台に登らんと逸る彼を、我々は先人の顰に倣って見守り、祈るのか、それとも現代人らしく今回ばかりは思い止まらせるのかという(ストックトン風の)パズル、思弁物として当時は無邪気に読んでいました 同時にこの小説にあまりかかわらないように、熱くならない方が良いのかなとも 後年『革命前夜』を読んだ際には、逆にヒロインの冷ややかな皮相に伝染しないよう気をつけたものでしたが
 ボストン・テランの著書『神は銃弾』からタイトルだけ借用 小説の内容は当エントリとは重なりません 小説はうーん・・・陰惨、あと、ヒロインは評判ほど格好良くなかったです