パターン・フォー・サバイバル

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 ううむ、屋はなにやら「ネタ」の様相を呈してきたのでしょか? それではと――「衒学」趣味は手に余るので――存分に感傷的に、ヒステリックにわめいてみましょうと


1 暴走! 恐怖の反物質貯蔵ユニット

ディアナはホロデッキに行き、機関部の最終試験プログラムをロードした。ディアナはジョーディに「ジェフリーチューブに入ればODNコンジットを修理できるか?」と質問する。答えはイエスだが、ウォーフは「放射能が充満し、生きては帰れない」と忠告する。ディアナは一瞬考え込み、ジョーディに修理を命じた。ライカーが「シミュレーション終了」と命じるとウォーフたちは消えた。http://www2u.biglobe.ne.jp/~mayuzumi/startrek/tng_guide/7th/epi168.html

 彼女は自己嫌悪に陥っていた。ライカーは「君はやるべきことをやらなかったんだ」と諭した。
「私は失格なの? あらゆる可能性を検討し、計算し、ジェフリー管への突入以外に方法がないのを明らかにしたのに?」
「なぜジョーディを?」ライカーが問う。
「ええっ・・・・・・」
「事故の究明にジョーディは不可欠だ。なのに君は職分に――機関部長の責務に含まれると判断し彼に命じた・・・・・・コンピューター!」
 選択リストが机上に映し出された。搭乗員たちのぎこちない笑顔が青ざめたディアナを照らす。
「ユニット放出作業を始めるのが彼でなきゃいけない理由はない。コンジット修理そのものは簡易なものだ――だが事後の検証にジョーディは外せない。君が技能者リストの最下位にあるバークレイ中尉を選ばない理由はどこにもなかった」
「それは・・・・・・」
「更に有資格のパラメーターを除いてやると――ウェスリーからクララ・サッターまでが該当する」ライカーは追い討ちをかける。慎ましやかにこちらを見返す人々の仮像に、ディアナはすっかり取り囲まれた。
「君は緊急事態に瀕し職責という形而上の価値に拘束されてしまったんだ。少なくともレッジ・バークレイ以下から適任を選択すべきだった」
 ディアナはひゅうと息を継ぐと椅子の背に身体をあずけた。
「そうね・・・・・・私は共感を捨て切れなかった。ベタゾイド――感応者の限界とはこの事だったのね」
「ディアナ、己の限界を知ることもまた貴重な、未知なる大陸の発見だよ」
「武術マニアのウォーフがいいそうなセリフね」
 ホロデッキでジュージュツ修行に明け暮れる保安チーフの雄姿を思い浮かべ、恋人たちはこっそりと笑みを交わすのだった。


2 生還者、ウォーターベッドの下から語る

「みんな待ってくれ」ジャックは両腕を窮屈に差し上げ、デッキへ急ぐ善男善女の前に立ちはだかった。
「待ってくれ――救助を待ち続ける、この寒さと漂流に耐えられる意志、体力を考慮すれば、一等船客の男性を先に通すべきなんだ」
 ジャックの言葉に、通路にひしめき脂汗を流す乗客だけでなく、誘導していた高級船員までもが目をむいた。
「どうして? それは正しいの? 一人でも多く――体格のない子どもたち、体重の軽い者たちを優先して移乗させるべきじゃないかしら?」息を弾ませ、痩せた胸に赤ん坊を抱えこんだ母親がジャックに詰め寄る。
「いや、救出後まで考えてほしい。残された寡婦や孤児たちの面倒は誰が見るんだい? たとえ生きながらえたとしても、働き手、大黒柱を失くした人々にはずっと辛い運命が待っている。でも彼らは生き延びる、心配ない、それだけの財力があるんだ」ジャックはゆっくりと、老人の繰言のように言葉を区切り女に語った。
 夫らしき小男――白の背広に胴衣を巻いた外国人が、女の肩にぽんと手を置いた。ありがたいことに他の乗客らのざわめきも徐々におさまった。ようやく彼らも、無様に騒ぎ立てる、聞き分けのない乗客に向けられる客室乗務員の眼差しを、観客席のうんざりした表情を思い起こしてくれたようだ。
 危機を乗り越えたジャックは、最愛の恋人を振り返る。
「すまないローズ、君まで後回しとなってしまった」
「いいえジャック、立派だったわ。貴方を誇りに思う」ローズの瞳に湛えられているのは、恋情よりもずっと確かな、こぼれんばかりの崇拝の念だ。
 航海士はひしと見つめ合う二人に一礼し、キャップを目深にかぶり直すと、リンボのごとき薄暗く生温かな隘路から退出した――

「ローズ、先に待ってるからね!」キャルドン・ホックリーは婚約者に大声で呼びかけた。
「ドーソン、貴殿のご家族は私が――」
 白い霧が凍てついたプロムナードに寄り添う男女を、たゆたう巨船を覆い隠す。どれほど耳を澄ましても、二人の応答はついにホックリーには届かなかった。


*エントリタイトルはマシスンのショートショートから 2の仮題はロバート・オレン・バトラーのタブロイド紙風見出しから引いています