フィアスコ


 新年最初のエントリが「大失敗」なのだ まあ去年の追記だからいいか
 愛読者カードの走り書きを読んでもまとまらない、わからない 一年経たないのにこれでは困る とりあえず書き出してみよう(メモに番号は振ってない)

レム無慚

  1. キリスト教は人間が求められる以上を請う
  2. 天使的博士DA、山師の口上GOD
  3. 功績、罪科で選別しない
  4. 縮図――生物、文化要因の除外を正当化、超倫理的に(世界史は残虐、征服の堆積)¬宇宙の最も恐ろしい倒錯、知性が血と辱めに蔽い尽くされた悪辣な殺人者の真相
  5. 敗因――鏡像効果(相似る? ミラーイメージ?)、ミニマックス(安全と信頼の釣り値を上げる競争) 「神話の決まり文句を読み上げ」古い溝に嵌まる 持参した別の神話的プログラムに従った
  6. ロマンティシズム〜神話的オカルト
    • レム 物理学、数学を用いた仮説のドラフト
    • ラファティ 中古車の値段、村人の悪癖についてxxxx(文字が擦れて読めない) 堆積した白骨インディアンとの会話

[1]乗務員たちの論戦中(航海とは長い待機と論争で費やされるものらしい)飛び出した神父に対する反駁だったかな? 教区内での神父のセリフだったやもしれぬ 「泣き言いっても始まらん、神は容赦ないんだよ」と(慰めは恩寵だけ)
[2]遠征に遣わされた会士の釣書(Doctor Angelicus) GODは(General Operational Device)の略、対話する最終世代コンピューターだが、本書での役どころは狂言回し
[3]医師とキリスト教聖職者という救済者の共通点を述べたセリフ サルベージされた二体の冬眠者から一人のみを蘇生しなければならぬジレンマに医療班が対峙する 担当した船医は医学的所見、経歴、自身の信仰にもすがれず断を下した
[4]宇宙に打ち上げた地球人の手引書(METIボイジャーのゴールデンレコード等)は詐欺じゃないのかつー異議申し立て
[5]本書の大筋 オビに書かれそうな文句ではある 遠征隊はユニバーサルに、合理的であろうとするが、結局は(あまりに人間的な)大言壮語な神話に拠るという随分ないかさまを発揮、それを諫めた唯一人の隊員が天使的博士だったという皮肉(或いは審問官としては適任とか)
[6]ラファティ作品と比較してアプローチの異相に突っ込もうとしたらしいが、なんのこっちゃで今さら追えず……「仮説のドラフト」ってなんだろ?


『Fiasco』は知的生命体、文明探査計画を題材にした「最後の長編小説」 レムは沈痛なコミュニケーション不全を論じ、そこに疎外論を付箋した 主なる登場人物は飛行士ピルクス(〜パルヴィス)と神父アラゴ、人工知能GOD 個人的には惑星派遣船の指揮官が好みだったけど、その地位故に禁欲的にならざるを得ず、活躍できぬまま彼は悲惨な役目を負うこととなる ピルクスは承前での活躍がすべて(ピクルスと改名しちゃえばいい) 神父は祈りを説くアドバイザーとしての乗船資格を持つようで、映画『コンタクト』に於ける「異星人に最初に接見する人類代表は神の実在を認める者であるべきだ」という倫理規定とはやや異なり、納税者やスポンサーがらみでもなさそうだ 人好きしないキャラ、船の良心回路なる称号は簡略すぎ、政治的すぎるか(かつて本書はレーガンのSDI構想批判に引用されたらしい)
 本書は失敗――背走の物語 並存も統合も不可*1 背走するのは「アイガッツ!」と叫びつつ、グリーン・モンスターにぶち当たり、次第にフェンスにめり込むプレイヤー 問題は外野手が「背中に目がある」イチロークラスの名手であることだ ここに無理が生じる(道理もあやうい) 利発で自省的、なにより勇気ある人々が、撤退できずに失意の道をたどる物語なのだ  
 奇妙な前提を綿密な論理、誠実な操作で押し込んでいくのがレムの持ち味――浅学の乱暴な振り分けをすれば、物理でない数学志向の人なのだろう*2 他方、本文中にベイズ主義者(のカリカチュア)扮する人物が口八丁のGODを打ち負かす場面もある――で、レムの「物語」はいらない、論理だけが読みたいと話すファンがいるほど 彼らは『完全な真空』、『虚数』を高く評価するが、『ロボット物語』を推す自分でさえ本書の処理手順は物足りなく感じた 学者たちの口を借りた考察が、肝心な部分に差し掛かるとそらされる――新参者が会話を中断させたり、急激なストーリー展開で妨げられるのだ(ダン・シモンズなら驚かないが) レムは読者に希望を提示できない小説は書くべきではないと筆を置いた作家だ しかし、失敗が不可避である事を覚悟しながら、テーブルに叩きつけたチップの確認とその回収のため破滅へと突き進む人々を描くこの作品に――『砂漠の惑星』の人間賛歌は不要だとしても――自分は希望を見出せなかった もちろん様々のエピソード、アフォリズムは素晴らしい(カタストロフも悪趣味じゃない) 亜光速にまつわるからくりはアレステア・レナルズを凌ぎ、「偶然」の効用とその倫理性、レム式軍政学、戦術論(対立する陣営が共鏡となり、戦域が拡大し、意思決定が分散……否、下手な要約は邪魔になる GODが語る生態系や圏域が偏移していくありさまは本書で)は愉しく饒舌で、平均的な読書人ならこの一冊でホットエントリに上がる記事を二、三ものにできるはず(Fランクダイアリでは無理) 自分は「ターザンとジェーンで学ぶSETI、もしくは宇宙節足博覧会」なるエントリを思いついたぐらい これは誰も読みたくない(書きたくもないぐらいだもの)

*1:http://home.hiroshima-u.ac.jp/forum/30-2/hirakareta.html
*2:宇宙が数学の後塵を拝する「新しい宇宙創造説」など

わがセクソイド

 セクシズムは結構な深みがあるのだけど、物語の終盤、こんな自分でも首を傾げたくなる記述があった 一人の乗組員の取ってつけたような不満から、なんと男女同権、雇用の機会均等の愚かしさが告発される 唐突で性急でまったくレムらしくない(チームは偶然男性のみの構成となったのか、または端から女性は不可だったのか、神父との整合性はどうなるのか等々一切示されない) 女性たちの主張ですら激昂した隊員が口走る新聞記事の断片でしか伺えぬのだ(宇宙船はホームであるべきで、それを提供できるのは女性だけで、委員会はファシストだ――まあ、そんなの) 「訳者あとがき」で知ったが、友人であり、レム作品の良き理解者でもある米国の翻訳家も同様の感想を抱いたらしく、他の論考と比べていかにもか弱く、説教的、レムのセクシズムは古風で「滑稽」であると散々な評価 尚、レムの承諾を得た上で米国版では「文学的検閲」により丸々このエピソードが削除されている由 親族、友人のみがなせるわざですな
 ところで、女性が身体的に、精神的にも宇宙への適性が高いとするSF作品は少なくない(ジョン・ヴァーリィ、なにせハインラインまで書いてる) 最近読んだものでは表紙が詐欺のエリザベス・ベアが「女性特有の」受動や諦観を航宙士としての雅量、気宇にまで引き上げていた アピール不足に陥れば、無酸素、無重力の倉庫で植民用か自足歩行の武器として冷凍パックされる他に男性に与えられるスペースは艦内には存在しないわけ とまれ、代表的な作品はアンデルセンの童話を下敷きにしたジョーン・D・ヴィンジの『鉛の兵隊』だろう 一読あれあれ


 去年の五冊に入った作品なのに悪口しか思いつかず今日(1/22)やっと でもこの感想文、不定期にあちこち改ざんすると思います