十の罪業――たとえば、愛とか

(挿入、脚注、注記を多用する 入れ子が甚だ読みづらい、二名済まない)


 アンソロジーの新刊(2005年)を読む 『十の罪業 BLACK』エド・マクベイン――赤本と黒本があり、スティーヴン・キングジョイス・キャロル・オーツの名が載った黒を迷わず手に取る*1
 故マクベインを巨匠、マスター呼ぶことはやぶさかでないが、実は一冊も読んだことがない*2 (87分署は)いい加減読み始めんといけんなーと思っているうち時期を外してしまったのと、昔々『笑う警官』*3なる映画を見て、小説を含めこれ以上の警察ミステリーの創作物は探せないのじゃないかと引いてしまったせいでもある*4
 で、感想 目当ての作品――ちなみに「911以後」の小説 911を因由とした作品はほとんど読んでいない*5 自分にとって現代小説の舞台は60〜70年、二棟の摩天楼もボールバックが仕舞い込まれた地下のロッカー室と共に健在である*6――は良くも悪くもキング*7だった オーツもしかり*8 ディーヴァーは案にたがわずドタバタし、初読のアン・ペリーなる作家(エリザベス二世号の船上で創作講座を開催するそうだ)は、北アイルランド問題を扱った小品だった*9
 んで、最後に残った*10一編――『アーチボルド−線上を歩く者』ウォルター・モズリイ――相違してこれが一番楽しめた チャンドラー熱を通過した後は、気の利いた言い回し、凝った比喩*11にすっかり食傷してしまい、卑しき街を行く騎士たちの物語*12を久しく敬遠していたせいもあったろう(つまり、目新しく感じたわけ) まずは幾つか引いてみよう

自分は真実に近い立場にいるから他人の権利を侵害して当然という頭のおかしな政治家

警察とは取り決めができている。こっちからは話しをもちかけないし、向こうも耳をかさない

 うむうむ、ひょろりと青白い誠実さと黒檀の豪胆を同居させてこそ探偵*13――軽口をたたく理想家、無邪気な理想を語る不逞(無法者)である

それが嘘に屈することを意味するなら、法律の条文に決して歩を譲ってはならない

 AML――もとい、ALL(Archibald Lawless)*14は、活動するプロ市民探偵なのであった*15
 ALLは事務所の壁一面に黒煙のような髭を蓄えた太っちょ*16ポートレートを飾りつけ、曖昧な警句を吐く 韻を踏む人種問題は(T・E・D・クラインとは異なり)いささかも物語の進行を妨げない*17

ちゃんと税金を払うと言ったのはきみだ。そうすることできみはエリート犯罪人の一味に、政治の階級に組み込まれていく。ガソリンでもニットのセーターでもバナナでも、それを買うとき、きみは地球最大の犯罪組織に属しているんだぞ

 んー、でもなー 話は面白かったんだけど んー、どうもねー、ネロ・ウルフと一緒でキャラが受け付けない――この巨漢は焼けたアスファルトに靴底を焦がしたりはしないし、なにより「清濁併せ呑む」革新系*18には尻込みしちゃうというか、自分、難儀なんです よってこれきり

 赤本は87分署シリーズ(最後の)中篇と殺し屋ケラーが収録されている どうしましょうかね


付記 タイトルについて
 往年のテレビっ子であれば苦笑してくれたかも 自分が付す一連のエントリタイトルは「夏の読書講座で身についた悪癖」と失笑されるレベル(意余って言葉足らず)なわけですが、マクベイン(井上 一夫)の小説タイトルを借用した倉本聰脚本のテレビドラマ『たとえば、愛』――うらぶれたライターが起死回生に提出したシナリオはあっけなく却下されるものの、「たとえば、愛」と記したタイトルだけが採用されるという自虐(逆に驕慢かも?)ネタのエピソードがあった由

*1:近視眼的な経済観念を持つゆえ、二冊同時は無駄遣い

*2:短編を除く エヴァン・ハンター名義であったかもしれん、なんか見つからないけど

*3:ウォルター・マッソーが出たやつ

*4:ロイ・ヴィカーズの迷宮課シリーズは素晴らしいが、どちらかつうと実話物

*5:ル=グウィンの『なつかしく謎めいて』ぐらい

*6:その時代を描いた新刊小説などを読むと、郷愁ではなく、自分は中二階に迷い込んだような、針の先にひしめくような実に不思議な気分となる 翻訳家が時制に関する誤った構文を読む際は、同様の思いに捕らわれるのだろうか?

*7:魅力的な筆致で描かれる日常、概略すればただのB級SFホラー カタストロフと遠く瞬く希望の灯

*8:〜新人賞受賞作の見本 作家志望はオーツを読むべし――この人は自在すぎるのだろうね 多作であるにもかかわらず実験的手法を自制しているのも理解できる

*9:そう、皆さんが今、頭に思い描いた通りの小説

*10:収録順でなく興味のあるやつから読んだ それほど食指が動かなかったというわけ

*11:トリックを書き留めるごとく、チャンドラーは思いついた比喩をノートに記した

*12:ハードボイルド 女性の描写に凝るのも特徴の一

*13:ま、一種のファンタジー

*14:不明のLは「でかぶつ」のLかしらん

*15:ロジャー・L・サイモンの探偵モウゼズは傷心の元運動家が主人公――リチャード・ドレイファス主演のテレビ映画を見ただけですけど

*16:無政府主義者だ!;゚Д゚

*17:活劇はワトソン役の素直な青年――『 セント・オブ・ウーマン 』のクリス・オドネルを思い浮かべてください――の通過儀礼コーチング)である

*18:浮き彫りの名刺をやたらに配りたがるイメージ