んあーすうあぃすと、すぱーすた


トリックスター」なる言葉が折々に浮かぶたび、剃髪に三角帽、鼻を赤く塗られ磔刑に処せられるキリスト像が重なるのだが、二十年ぶりに『ヴォネガット大いに語る』を読み、元ネタが判明する
 ニクソンVSマクガバンのリポート「神ご自身をも恥じ入らせるような有様で」中に登場するアビー・ホフマンという「くたびれた」人物に関連し、ヴォネガットは社会革命に於ける道化の位置、歴史的評価を過大だとした 引いてみよう(……は引用者による略)
……アビーはもうあまり道化た真似はしないだろう、とわたしは思った。敗北者を助けたがっている生まれつき愉快な人々の多くが、もう道化を演じなくなるだろう。道化を演じることによって冷酷な社会機構のタイミングを狂わせたり、動きを鈍らせたりすることが不可能であるという事実を、ようやく悟ったからだ。実際、それはたいてい潤滑油の働きをしてしまうのだ。
 にもかかわらず、歴史のおもしろいところは、道化師がしばしば最も強力な革命家の役割を演じたことだ、とわたしに教えてくれる人がいる。だが、それは真実ではない。過去の冷酷な社会機構は潤滑油としての道化師を大いに必要としたので、しばしば意図的に道化師を製造したのである。スペインの異端審判を見るがよい
……宗教裁判所は、異端とみなした者を街の広場で焼き殺す前に、その者の頭から足まですっかり剃り落とした……道化帽子とおかしな紙の衣を着せ、顔まで塗りたくったり、仮面をかぶせたりする。
 会場で作家がインタビューした孤高のチッペワ族が語る「道化」は、「全世界の虐げられたる民の代理と自称して平気で国旗を焼いたり、国旗に小便をかけたりする長髪の若い白人ども」であった*1
「同情は社会機構にとって赤さびみたいなもの」、同情は傷つき血を流す貧者へ与えるアスピリンにしかならないが、「その<ほんのちょっぴり>でさえ、血なまぐさい殺人みたいに勝利者たちの心を傷つける」とヴォネガットはいう 敗北者は「敗北のなんたる事を知っているので敗北者には票を投じない」 マクガバンの敗因を作家はポピュリズムに首まで漬かってしまったからだとした 首まで神に漬かったクエーカーには勝てないと 「選挙は右で」の教え*2
「最適者のみの生存こそ宇宙の意思、苦痛を、犠牲者を無視せよ」陣営が、「泣く者と共に泣く宗教」に戦いを挑まれた際は、犠牲者たちの代弁者が道化に見えるよう鋭意する 会場に飛び交うパンフには「革長靴をはいたレズビアン。気取って歩くホモ。麻薬で狂ったヒッピー。キャデラックで失業保険を取りにいく売春婦。十三人の子供をかかえた大きなでぶの黒人ママ」のイラストがあふれていたそうだ


 エッセイにはアート・バックウォルドという懐かしい名も登場する ベトナムの時代、作家、ジャーナリストは無力(政治家、軍人らが被ったのは2メートルの高さから落下するレモンパイ程度の衝撃)であったが、他方、ジャーナリズムの隆盛期だったとも

 2ヶ月前にエントリすべき一文。テニヲハを弄くりまわし、切り貼りで遊んでいるうち帳面の紙魚へ 夏の終わりに天日干しとなりました

*1:自分の立場では、「反日上等」はカウンターとして理解できる 奇妙な三角帽かもしれぬが、憐れんだり、笑い飛ばしたりはできなかった 個人的に不可解だった例は、行軍を商店街パレードになぞらえたり、ロケットのパラドックスの体でトーチカに籠城したり、弔問客に頭を下げる遺族を冷やかしたり、なぜか幟を立てての一言居士だったりする

*2:んで、当選後は左に舵を切り、裏切り者と貶された人物もいた しかし面舵(starboard)を続ければ「気骨のある、偉大な」大統領と語り継がれるわけだ